今日は配球論をします。
キャッチャーの坂倉将吾がなぜ私に絶賛されているのかを解説します。
森下翔太のケース
まずストライクゾーンを9分割します。バッターは阪神の森下翔太だとしましょうか。
【図1】
123 森
456 下
789 翔
上の図は投手から見た、右打者の森下です。
素人が大好きな「コース別打率」ってありますよね。アウトローが.250で、インハイが.200とか。
実際の2025年の森下翔太のコース別打率を見てきました。ソースはこちら
これによると森下は「真ん中の258番」が打率.400。
「外角の147番」と「内角の369番」は.250~.270くらいでした。
もっと細かく見てみると「外角低めの7番」が72打数18安打0本塁打。打率.250
「内角低めの9番」は31打数8安打3本塁打。打率.258
森下のコース別打率を見ると、「7番」の打率が1番低く、「9番」の打率が2番目に低いです。
真ん中の打率が.400で、内と外も.250以上。すると森下の打率って.300超えてんの?
ところが今季の森下は通算打率.275。なんでかと言うとストライクゾーンの外のタマを結構振ってるからです。
「7番の左隣」や」「8番の下」とかをよく振ってアウトになってます。
対右投手、対左投手でも打者の傾向は違います。森下は「対右投手の7番の下」を11打数4安打、打率.364も打ってます。
うわあ、めっちゃこのイメージあるわあ。今季の森下はの「右投手の外角低めボールのスライダー」を年間4本もヒットにしてるのです。いやこれ、4本のうちの2本くらいはカープ戦であったで。
1丁目1番地
CS1stが終わって、水曜日からDeNAと阪神が試合をします。
阪神の森下を抑えようと思ったら、あなたはどこへ投げますか?
たとえ7番近辺の打率が3割以上あっても、配球の基本は「7番の出し入れ」です。
ノムさんが昭和60年ごろに一般化した理論ですが、40年たった今でもNPBでは誰もこの理論を疑ってません。
昭和のノムさんは
「打者に内角高めを見せた後、外角低めのタマを振らせるべし。変化球ならなおよし」
との理論を広めました。
昭和60年のノムさんの理論は
「外角低めが一番長打の出にくいコースだから、バッターにこのコースを打たせたい」
から逆算して、2ストライク後に外角低めを振らせる配球を推奨しました。
40年たった今でも「外角低めが一番安全」である 結果 は変わっていません。外角低めに投げることが配球の基本。
しかし外角低めが1番安全である 内容 は若干変わってきております。
バッター側の対応
バッターも配球を読んで打ちます。
「インハイに来たら次はアウトトローだろ」
くらいは誰でも考えてます。
NPBに新外国人選手が来た時、打撃コーチが真っ先に教えることが「NPBの配球」だそうです。
「内角ストレートはたいがいボール球だ」
とか
「追い込まれたら外角低め変化球が8割だ」
とか。これもイロハのイですよ。
ソフトバンクなんかは何年も前から、チームとして外角低め変化球を狙い打ってくることが増えたし、それこそ阪神の森下翔太や佐藤輝明はけっこう外角低めに「目付け」をしている。
最も顕著な例はヤクルト村上宗隆です。あいつは左バッターだから、上の表で言うと外角の369番をいつもレフト方向に狙ってますよね。
MLBがフライボール革命とか言って、バットをアッパー気味に振って、外角低めを反対方向に打つ打ち方を流行らせました。
大谷翔平もその打ち方だし、村上宗隆もその打ち方。だから私はこいつらにはインハイを攻めろと言っている。
実際に最近のMLBでも高めストレートを主体とする投手も増えてるようだ。今永もマエケンも高めストレートが生きる道だと言及したことがある。
NPBでもたまにいるんですよ。高めストレート中心で投げる投手が。
日本ハムの山本拓実は中日時代から高めを狙って投げてたし、藤川球児も高めを狙って投げてました。
先発投手ではあまりいないかな。ロッテから巨人に行ったヒルマンとか、阪神から巨人へ行ったメイなんかは高めストレートのイメージが強い。
ピッチャーの意識
NPBの、特にセリーグにまだまだ宗教的に「外角低めが安心」と信じてる人たちが多い。選手もコーチも。
背景には高校生でも大学生でも高めの強いストレートをあまり練習していないことがあると思います。
ほとんど全ての投手がインハイのストレートより、アウトローのストレートの方が球威があって制球も良いです。
アウトローよりインハイが方が速いという投手はほとんどいない。
マニアックなところではカープの高橋昂也がアウトローよりインハイの方が速いです。
玉村昇悟にもセンスを感じますが、玉村はインハイよりインローがもっと良い。昂也君はインハイが良い。良かったと言うべきか。
他球団の先発投手なら、阪神の才木がいいインハイを投げる。村上頌樹は完全にアウトロー。
このように、プロの投手でも「インハイが最高のボール」という投手はほとんどいない。100人に1人くらいじゃないか。
残り99%の投手はインハイよりアウトローの方が球威もあって制球も良い。
昭和のノムさんは「困ったらアウトロー」と言いましたが、今は違った理由で「困ったらアウトロー」が安全なんですよ。
日本の若者はマジメだから、年輩指導者の言うことをよく聞くし、素直に従うんだろうなあ。
カープの若手もマジメそうだなあ。投手コーチの言うことを聞いて、冒険しない子が多そうだ。
坂倉のリード
ほんで冒険的なリードをするのが坂倉なんですよ。
若い頃はインコースを多投してましたし、去年今年あたりは、味方投手に考えさせて育てようとしているようにも見える。
「配球に正解は無い」というのは事実だと思います。阪神の森下はボール球を3割打ってるし、村上宗隆は外角低め9番を.360も打ってるんですよ。
村上は外角低めなら、ストレートでも変化球でもどちらもかち上げてホームランすることができます。右投手左投手関係なく、外角低め9番は村上の好物。
巨人の岡本和真は「左投手の外角低め」が打率.350なのに対し、「右投手の外角低め」は打率.200です。イメージ通りでした。
ヘボいキャッチャーは
「じゃあ岡本には外のスライダー投げとけ」
となるのですが、今度は味方の投手がそこを狙って本当に投げ切れるのかを見抜けません。
「打たれたけど、俺は岡本の苦手なコースに要求したんだから悪いくないぜ」
とか言ってるヤツは勝てる捕手ではありません。
ピッチャーって9分割のコースを全部、全球種でストライク取れるわけではありません。
例えばカープの大瀬良大地なんかは、カットボールを自由自在に投げられますが、右上の3番を狙って投げることはありません。左上の1番はしょっちゅう行きますけどね。
大瀬良のカットボールはNPBでも屈指の魔球です。9分割のうち8コースを狙えます。
普通の投手はこうはいかない。フォークボールを1~3番にズバズバ制球できる投手はいません。
上原浩治クラスならできたかもしれないが、フォークは普通真ん中から下にしか制球できない。
スライダーもそうで、右投げの10勝投手でも「スライダーは5番と7番の2ヵ所しか投げられない」ってやつが多いです。
ストレートでさえ9か所全部投げ分けられるとは限らない。
四隅の「1379番」しか練習してない投手や、投げ込みをしない投手なら「2468番」に投げられないやつも結構います。
キャッチャーはこういう投手たちと、相手バッターを見てリードするのです。
外角低めが一番無難ですけど、それだけだと球数がかかってリズムが悪くなって、試合に勝てないのです。