FA残留の美しさを北海道の宮西尚生に学ぶ

ペナントレースもいよいよ残り1ヶ月を切りました。
そろそろ各チームの監督人事やドラフト、FA、外国人、いろいろ気になる季節です。
GとTのファンが「今年はFAで〇〇がほしい」と騒ぎ出すのも風物詩。

でもちょっと待ってください。
この3年間、広島に独走での三連覇を許してきたセリーグ。
今年も安易に「FA補弱」を繰り返してよいのか?
特に巨人と阪神。ますます暗黒時代に入りますよ。
ここで唐突に過去3シーズンを1つの順位表にまとめてみますした。
どん!
広島 250勝153敗 .620 差
巨人 203勝201敗 .503 47.5
阪神 197勝199敗 .498 49.5
DeNA 197勝202敗 .494 51.0
中日 175勝231敗 .431 76.5
ヤク 170勝235敗 .420 81.0
(2018年9月12日現在)
カープの貯金97! 2位とのゲーム差47.5!
これはあかんでしょ。カープファンでも笑えない数字です。野球離れの危機。

巨人と阪神。
中途半端なFA選手を獲得するからチームが弱くなってる事実に、なぜまだ気付かないのか。
ファンも悪いです。自前の若手を暖かく応援してあげなくちゃ。
中途半端な補強を繰り返すと二軍の若手が腐っちゃいます。
38歳の相川捕手を獲って19歳の奥村をヤクルトに獲られて何やってんの?って感じですよ。
一岡と大竹の話はもうしません。
阪神ファンは藤浪をヤジるのやめなさい。ヤジるなら金本でしょ。

と、ここまでは前振りです。←長い
「外様に頼らず若手を使え」とか「ゲレーロの元は取れたか?」とか「丸と浅村ほしいなあ」という考察はよくあります。
そこで今回は趣向を変えて「FA権を獲得した選手の視点」からFA移籍を考察してみます。
俺はなぜ移籍したのか、なぜ残留したのかについて。

まず最初に「FA宣言せず残留」した主力選手たちを紹介してみます。
はいどうぞ。

年度      旧年俸 新年俸 契約年数
2011年※L中村剛也  12500 25000 3年
2014年 F宮西尚生 14000 18000 3年
2014年 E嶋 基宏 12000 12000 1年
2015年 S川端慎吾  7500 16000 4年
2015年 L炭谷銀仁朗  7700   9000 2年
2015年 H攝津 正 40000 40000 3年
2016年 D平田良介  7000 12000 3年
2016年 D大島洋平  9000 15000 3年
2017年 F宮西尚生 20000 15000 1年

2017年※H柳田悠岐 26000 55000 3年

みんな30歳前後でFA権を取得した選手たち。当時のバリバリの主力です。
※おかわりとギータは国内FA獲得前年の複数年契約です。
この表を見ると「残留した主力はまずまず幸せな現役生活を送れてるなあ」って思いませんか。
宣言して残留した大物も多いです。
三浦大輔、金子千尋、鳥谷敬、松田宣浩など。
どうです?
残留した選手たちは愛着ある球団でそこそこ暖かい晩年を過ごしていますよね。
これまで10年近く貢献してきたチームなので決してポイ捨てされるようなことはありません。

この表の中で特に興味深かったのは2017年に海外FA権を取得しながら宣言残留を選んだ日本ハムの宮西です。
■宮西尚生のケース
今年も素晴らしいコントロールで安定感のあるピッチングを披露しています。
彼はなぜ宣言せずに残留したのか・・・
ちょっと振り返ってみましょう。

実は彼、2014年の国内FA権取得時にもちょっぴり揺れました。
移籍か、残留か? 当時29歳。
しかし結果は宣言せずに残留。
残留会見では
「関西育ちですが今は北海道に戻ると『あー帰ってきたな』と思う」
と発言。カープの丸佳浩と同じことを発言しています。
育ててもらったチームとファンへの愛着をにじませつつ残留。
もしかしたらメジャーリーグへの夢もあったかもしんない。
2016年には丸を三振に切って取り、日本一の立役者に。

しかしハムはこの後にけっこうなリストラを敢行します。
2016年11月には30歳の陽岱鋼を引き留めずFA移籍させました。陽は寂しそうでした。
その3日後、元エースの吉川光夫も巨人にトレード。
2017年7月にはセットアッパー谷元を中日へ金銭トレードで放出。
2017年11月、クローザー増井と正捕手大野がFA宣言。
チームの顔だった糸井嘉男をオリックスにトレードしたのは2013年でした。

宮西はこれを見ながら考えました。
「俺もベテランになったらこうやって放出されんのかな?」

2017年海外FA権を取得した宮西は11月に球団と話し合いの場を持ちます。
宮西が愛着あるファイターズに聞きたかったことはただ一つ。
「自分はこのチームに必要とされているのか?」
球団側の回答は「引退までこのチームにいて欲しい」というものでした。
これで宮西は残留を即断。FA権を行使せずハムの残留を発表しました。

宮西は会見でこう語りました。

「自分の中では思う所もありましたし、心の中ではもっと上を目指したい、挑戦したい、という気持ちも正直あった。ただ、やっぱりファイターズというチームが好き。その中で必要とされるというのは、ありきたりな言葉かもしれないけど、そのありきたりな言葉を僕は欲しかった。話の中で自分の中のモヤモヤは消えたので、来季から全力でやっていきたい」

素晴らしい。
そして美しいです。
「宣言せず残留」は「球団の誠意」と「選手の愛着」が混ざり合って完成する美しいグラデーション。
そして恋愛映画のクライマックスシーンと言ってもいい。

2008年に東出輝裕が「強いチームで勝って嬉しいか?俺はそうは思わない。この弱いカープを強くして優勝してみせる!」と発言し、FA権を行使せず残留。彼も球団から必要とされていることに恩義を感じました。
東出はその言葉から8年後、コーチとして本当にカープを優勝させました。
鈴木誠也を育てるなど優勝に大きく貢献。

そもそもFA制度の目的は「活躍の場を求める」が第1で、「高額年俸を得る」は第2目的だと思うんですよ。
より高い条件を求めて移籍する選手がいてももちろん悪くありません。
それがFA選手の権利ですから。
しかし長い野球人生を送りたい堅実な選手もいていいですよね。
村田修一や清原和博のような偉大なプレーヤーでも結果が出なければポイ捨てされることを今の現役の選手たちはみんな見ています。
だから丸佳浩はFA宣言しないと私は見ています。

■丸と松山のケース
もし丸が「カープを出る」と言っても私は丸をずっと応援しますよ。金本もそうでしたよ。
彼の権利で彼の人生です。丸はもう十分カープに貢献してくれました。
しかし私の予想では、丸は高い条件よりも「引退まで広島で長い間プレーしたい」と考えていると思うんですよ。
「広島で」と「長い間」の二つが丸の希望。金額は後回し。
丸はもうカープ球団とファンが自分を必要としていることは完全にわかっているはず。
あとは「長い間」プレーできるように球団が誠意を見せることができるかどうか。
たぶん大丈夫でしょう。私の予想は「丸は宣言せずに残留」です。

でも松山竜平は実は微妙です。
今季初めて打率3割を打てそうですが、彼の場合はFAの第1目的である「出場機会」を求めて「他球団の評価を聞きたい」と言い出す可能性があります。
カープ球団は来季33歳の松山に出場機会を「保証」することはできません。
バティスタが爆発すれば松山は代打に戻ることになります。

梵英心も2014年に国内FA権を獲得しました。
この年の梵は34歳。ショートのポジションを田中広輔に奪われ、自身はサードに入ることが多くなりました。
この頃のサードには期待のホープ堂林がいました。
梵は悩みます
「出場機会を求めるなら移籍の道も・・・」
しかし結果は残留。
獲得球団が現れないと思ったのか、まだまだ堂林には負けないと思ったのかはわかりません。笑

松山竜平の場合は宣言すれば引く手あまたです。
3割20本100打点を目指せる男。
Bランクではありますが、四番打者のいないチームにはうってつけの選手です。
足は遅いが外野守備は案外うまいんですよ。一塁も上手くなりました。
カープも松山に誠意を見せないといけないが、丸と同じやり方を松山にはできない。ゴメン松山。
残って欲しいが、出て行くなら応援します。

出場機会を求めて移籍するのは美しい。FA権は松山の権利です。
そしてチームと相思相愛で「宣言せずに残留」ももちろん美しい。
派手な大物の移籍ばかりでなく、阪神に強く慰留されたがそれでもレギュラーに挑戦したかった大和、「少しでも長く野球がやりたい」と発言しハムでも巨人でなくオリックスを選んだ増井。
こういう移籍は私も嬉しい。野球が好きって顔に書いてあるようです。

これが私の日本人的感覚です。
現役の野球選手にもこういう人間が多いと思います。